膝軟骨の「すり減り」は変形性膝関節症【原因と治療法について】

公開日:2022.05.25
更新日:

中高年世代の多くの方が罹患する変形性膝関節症。50代以上の約半数はこの疾患に悩まされているといいます[1]
変形性膝関節症は膝軟骨のすり減りに端を発し、時間と共に不可逆的に少しずつ進行していきます。このため、「年のせい」と回復を諦めてしまう方も少なくありませんが、そもそもなぜ膝軟骨はすり減るのでしょう? またこの状況を改善するためにどんな治療が行われるのでしょう? こうした点について解説します。

情報提供医師

蓬田 翔太 医師

蓬田 翔太 医師(東京ひざ関節症クリニック銀座院 院長)

日本整形外科学会認定 専門医

膝軟骨はなぜすり減るのか? その原因は?

膝軟骨は、膝を構成する脛骨(スネの骨)と大腿骨(太ももの骨)の接合面に存在し、関節の滑らかな動きを可能にします。軟骨と言っても軟骨細胞の割合は2%で、成分の70〜80%は水分、その他はプロテオグリカンやコラーゲン線維からなる基質で構成されています[2]。この水分量や基質のスポンジのような構造から関節の衝撃を緩和する役割を担いますが[3]、その含有量は加齢と共に減少します。加えて、軟骨細胞の新陳代謝も衰えるので「すり減り」はより顕著なものとなります。
つまり、軟骨のすり減りというのは、歳を重ねればある程度は誰にでも見られる「経年劣化」のようなものということです。ただ、その劣化速度には個人差があります。

健康な膝関節と、軟骨のすり減りが見られる膝関節

膝軟骨がすり減りやすいのはどんな人?

中年以降になると、多かれ少なかれ軟骨のすり減りが見られるようになりますが、次にあげる方々は特にすり減りやすいと考えられます。

膝(靭帯や半月板)をケガした経験がある方

膝を痛めたイメージ

靭帯や半月板など、膝の位置を安定させたり、膝にかかる衝撃や荷重を和らげたりする働きのある組織にダメージを負った既往がある方は、そうでない方に比べて軟骨のすり減る速度は速くなります。
このような方は、軟骨同志の擦れ(摩擦)を緩和するクッションが少ない、もしくは無い状態なので、軟骨も早く磨耗するということです。

肥満の方

肥満の方イメージ

人が歩くとき、膝には体重の2〜3倍の負荷がかかります。肥満の方の場合、その体重を支えるために膝にかかる負荷も当然大きくなります。

こうした物理的な負荷が、軟骨のすり減りを早めるのです。実際、体重過多は軟骨のすり減りを加速させると言われています。また、筋肉量の減少と体脂肪の増加を併せ持つサルコペニア肥満においては、重度の変形性膝関節症との関連が示唆される報告もあります[4]

女性

女性イメージ

膝軟骨のすり減りが引き起こす膝の疾患(変形性膝関節症)の患者さんは、統計上女性が圧倒的に多いです。特に閉経後の女性は骨、軟骨、筋肉を丈夫に保つ女性ホルモン(エストロゲン)が激減するのですが、こうしたことが影響していると考えられます。

膝軟骨がすり減ると何が起こるのか?

軟骨がすり減ってくると、膝に慢性的な痛みを感じるようになり、やがて骨の変形をきたすようになります。いわゆる変形性膝関節症です。

痛みを感じる

ひざ関節で炎症が起こる仕組み

軟骨自体には神経が通っていないので、すり減ること自体に痛みを感じることはありません。しかし、実際には痛みを感じるようになります。理由は、すり減って削られた軟骨の破片が関節の内側を覆う滑膜を刺激し、その結果、炎症が起こるからです。
初期には動かし始めの時に痛みを感じますが、軟骨が失われた状態になると、安静にしている時や寝ている間にも痛むようになります。

膝を動かしにくくなる/骨が変形する

軟骨のすり減りが進行して脛骨と大腿骨が直接擦れるようになると、膝がスムーズに動かせなくなります。また、骨に骨棘(こっきょく)という棘(とげ)のようなものができたり、「骨のう胞」という虫食いのような穴が開いたります。加えて、O脚やX脚も強くなり、外見上からでも分かるような脚の変形が見られるようになります。

膝軟骨がすり減る過程と自覚症状

骨の変形は日々進行するものです。以前の検査では初期だった変形性膝関節症が、知らない間に進行していた、なんてことも少なくありません。変形性膝関節症は症状の進行度によって治療内容も変わってきます。一度ひざの検査をしたことがある方も、前回の検査から期間が空いている場合は再検査をおすすめします。
当院ではMRIひざ即日診断を行っております。ご興味がある方はぜひ、お問い合わせください。

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軟骨のすり減り(変形性膝関節症)はどう治療するか?

診察で判別した重症度に応じて治療を開始します。
初期は進行を遅らせる目的の保存療法がメインですが、末期に向かうにつれて痛みの根本にアプローチする手術療法にシフトしていきます。

【変形性膝関節症の治療法】

概要 メリット デメリット
運動療法 ひざ関節がスムーズに動くように、筋力トレーニング、ストレッチ、有酸素運動などで筋力を強化する ・自宅で手軽にできる
・体重も減少すれば、ひざにかかる負担がさらに軽減される
・運動をし過ぎると逆効果になることがある
保存療法 薬物療法やヒアルロン酸注射でひざの痛みを取り除く ・ひざの痛みが和らぐ
・ヒアルロン酸注射は膝の動きも滑らかにする
・変形性膝関節症の症状が進行すると効かなくなってくる
手術療法 ひざ関節に骨切りや人工関節置換術などの外科的手術を行い、膝の痛みを取り除く ・術後はひざの痛みが大幅に改善される
・足がまっすぐに伸び、安定して歩けるようになる
・体に大きな負担がかかる
・合併症のリスクがある
・入院やリハビリの期間が長い
・一定の行動制限がある
再生医療 自身の血液や幹細胞から痛みへの有効成分を抽出・ひざに注射することで、痛みを取り除く ・保存療法が効かなくなった方にも効果が期待できる
・手術なしで痛みを取り除くことができる
・自由診療のため高額
・効果にはどうしても個人差がある

運動療法

変形性膝関節症における運動療法の基本

運動療法は変形性膝関節治療中心かつ基本であり、重症度にかかわらず常に継続すべきものです。
筋力トレーニングストレッチ有酸素運動をバランスよく行っていただけるよう、医師や理学療法士が具体的に指導します。
筋力トレーニングでは、大腿四頭筋など、膝を支える筋肉を鍛えます。これによって膝にかかる負担を減らし、痛みの軽減を図ります。
ストレッチの目的は筋肉をほぐすことです。関節の可動域の維持と向上に役立ちます。
有酸素運動は、減量や体脂肪率を減らすのに有効です。

▷運動の具体的な方法については
「【動画有り】変形性膝関節症に効く! 室内で簡単にできる筋力トレーニング」
「半月板損傷のリハビリ【自宅でできる13の方法】」をご覧ください

保存療法

膝の痛みが激しいとどうしても運動から遠ざかり、筋力の低下を引き起こします。すると、ますます運動が億劫になって、さらに筋力が衰えていく可能性があります。保存療法の大きな目的の一つは、この悪循環を断つことです。膝の痛みを抑えることで、運動療法を続けるモチベーションを維持します。
代表的なものとしては、薬物療法(内服薬/貼付薬/注射)、ヒアルロン酸注射が挙げられます。

【変形性膝関節症の治療で用いる主な薬剤】

効能 注意すべき副作用 使用形態
アセトアミノフェン ・鎮痛効果
 (比較的安全)
・食欲不振
・胃痛
・消化器症状など
・内服薬
非ステロイド消炎鎮痛薬
(NSAIDs)
・鎮痛効果
・抗炎症作用
・胃腸障害 ・内服薬
オピオイド鎮痛薬 ・強い鎮痛効果 ・便秘
・めまい
・吐き気
・眠気
・内服薬
・貼り薬
ステロイド薬 ・鎮痛効果
・抗炎症作用
繰り返しの使用で骨や軟骨に悪影響の可能性あり ・注射

 

手術療法

保存療法で十分な効果が得られない場合に、手術療法を検討します。
高位脛骨骨切り術は、骨を切ってつないでO脚などの骨の歪みを矯正する手術です。以前は若年者によく行われていましたが、人工関節の耐用年数が伸びた現在では、実施件数が減りつつあります。
人工関節置換術は、関節を切り取って人工関節に置き換える手術です。利点は、術後は痛みをほとんど感じなくなることですが、正座のように深く膝を曲げる動作はできなくなります。
この他に、関節鏡視下手術があります。体への負担が少ないので、高齢者や持病のために大きな手術を望まない人、人工関節置換手術を先延ばしにしたい人などに行います。
痛みの根本にアプローチするので大幅な改善が期待できますが、術後は一定の行動制限が求められます。

▷手術療法の詳細は
「変形性膝関節症の手術【費用/タイミング/術後の生活について】」で詳しくご紹介しています。

【変形性膝関節症で行われる主な手術】

関節鏡視下手術 脛骨骨切り術 人工関節置換術
適応 初期
 痛みや変形の程度が
軽い方
初期から中期
 40代以降
末期
 70代以降
手術の目的 痛みを緩和させること 関節の変形を整える
こと
関節の変形を整える
こと
メリット ・傷が小さい
・体に低負担
・活動的な生活が可能
・スポーツの再開が
可能
・痛みを大幅に改善
・歩行可能
デメリット 根本的には解決しない 長期的なリハビリが
必要
15〜20年ごとに人工関節の交換が必要
入院期間 1週間程度 4週間程度 2週間〜2ヵ月程度

【最新】再生医療

再生医療とは、失った臓器や組織の再生を目指して研究されている新しい医療分野です。変形性膝関節症に対しては、脂肪や血液を活用する再生医療が注目されており、変形性膝関節症の症状の進行を遅らせる効果が期待されています。
再生医療については、次の項目で詳しく解説します。

すり減った膝軟骨は増やせる?(再生できるのか?)

一度すり減ってしまった軟骨が元に戻ることはありません。ですが、再生医療であれば軟骨の回復を後押しすることが可能です。

再生医療と従来治療の違い

変形性膝関節症の進行と従来治療

 

再生医療は、保存療法と手術療法の間を埋める治療法と言えます。ヒアルロン酸注射などの保存療法が効かなくなった方に対しても、痛み軽減の効果が期待できます。

手術療法との大きな違いは、治療が注射で行えるということです。そのため入院は不要、日帰りで体にも低負担な治療を受けていただけます。再生医療によって、「手術が受けられない…」「手術を迷っている…」という方に向けても手術以外の効果的な選択肢の提供が可能になりました。

変形性膝関節症の進行と再生医療

 

膝関節痛の治療で広く行われているのはPRP療幹細胞療法です。当院ではこれら両治療を実施しています。

PRP-FD注射

患者さんの血液中の血小板に含まれる成長因子を抽出し、これを濃縮、さらにフリーズドライ加工したものを膝関節に注入します。

【膝の再生医療の詳細はこちら】
▶ひざ関節症クリニックの再生医療

培養幹細胞治療

患者さんの脂肪組織に含まれる幹細胞を抽出し、これを培養して膝に注射します。大量の生きた幹細胞が関節内で働き、長期的な痛みの改善が期待できます。

【膝の再生医療の詳細はこちら】
▶ひざ関節症クリニックの再生医療

PRP-FD注射と培養幹細胞治療の違い

PRP-FD注射と培養幹細胞治療は、枯れた土地の回復に例えられます。PRP-FD注射で豊かな土壌を作り、幹細胞治療でその土壌に種をまくというイメージです。膝の状態に応じてどちらか一方を行うこともあれば、両方をご提案させていただくこともあります。

数は限られますが実際、「種まき」(=再生のきっかけ)に例えられる培養幹細胞治療によって、膝軟骨が厚くなったという症例が確認されています[5][6]。また、軟骨の状態が大きく改善された報告の存在から、ある程度の有効性が示されていると結論づける研究も出てきています[7]

現時点ではまだまだその数が少なく明確な結論には至っていませんが、培養幹細胞の新たな可能性を感じさせる結果ではないかと考えています。

培養幹細胞がひざ軟骨に与えた影響

再生医療は「軟骨すり減り」に伴う痛み治療の新たな選択肢

軟骨のすり減りに伴う痛み治療は、ベースとなる運動療法を除くと、これまでは服薬やヒアルロン酸注射といった保存的治療か、手術治療かという極端な2択しかありませんでした。痛みという症状に対応することはできても、その原因である軟骨のすり減りをはじめとする関節組織の損傷自体にアプローチするには、手術しか方法がなかったということです。再生医療はこうした状況に風穴を空けるものとして期待されています。
保存的治療で効果が得られない、または様々な事情で手術は受けられないという方は、ぜひ新たな選択肢として検討いただければと思います。

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膝の病気やケガは早期に適切な治療を行わなければ、進行して歩くことが困難になるケースも少なくありません。そうならないためにも、原因をきちんと調べておくことが大切です。
当院でも膝の違和感や痛みの原因がわからないと、ご相談をいただくことが多々あります。そういったときには、MRIひざ即日診断で詳しく調べて、何が原因か、どうすれば良いかをわかりやすくご説明しています。同じようなお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

はじめてのご来院

コラムのポイント

  • 膝軟骨は加齢と共にすり減っていく
  • すり減った軟骨が元に戻ることはない
  • 再生医療は軟骨の回復の後押しに寄与する可能性がある

変形性膝関節症の最新治療~再生医療で膝の痛みを改善

よくある質問

膝軟骨は食べ物で増やすことはできますか?

現実的ではありませんし、痛みの改善も期待できません。
膝軟骨の構成成分であるコンドロイチンやグルコサミンを食べ物から摂取することは可能ですが、すり減った軟骨を増やすことは難しいと考えられます。
また、痛みの改善にも特に効果は得られないようです。変形性膝関節症の方1,583人を、①コンドロイチンのみ投与、②グルコサミンのみ投与、③コンドロイチンとグルコサミン併用、④鎮痛薬投与、⑤何も投与しない5群に分けそれぞれ半年間投与を続けた結果、グルコサミンとコンドロイチン、その両者を併用して投与したグループでは、膝の痛みの改善が認められませんでした。

適切な量であれば、コンドロイチンやグルコサミンを摂取すること自体は害でありませんが、現時点で医学的な効果までは証明されていないということはご留意ください[7]

参考

  1. [1]Yoshimura N, et al.: Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab. 2009: 27, 620-628.
  2. [2]立花 陽明「変形性膝関節症の診断と治療」理学療法科学20(3): 235-240, 2005
  3. [3]村上 輝夫「関節軟骨組織構造・軟骨細胞と関節のトライボロジー特性」生体医工学44巻 (2006) 4号
  4. [4]原口 和史ほか. 変形性膝関節症とサルコペニア肥満『整形外科と災害外科』2018年67巻2号 p.350-353.
  5. [5]Pers YM, et al.: Adipose Mesenchymal Stromal Cell-Based Therapy for Severe Osteoarthritis of the Knee: A Phase I Dose-Escalation Trial. Stem Cells Transl Med. 2016: 5, 847.
  6. [6]Kang-Il Kim, et al. Intra-articular Injection of Autologous Adipose-Derived Stem Cells or Stromal Vascular Fractions: Are They Effective for Patients With Knee Osteoarthritis? A Systematic Review With Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Am J Sports Med. 2022 Jan
  7. [7]Kang-Il Kim et, al. Intra-articular Injection of Autologous Adipose-Derived Stem Cells or Stromal Vascular Fractions: Are They Effective for Patients With Knee Osteoarthritis? A Systematic Review With Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Am J Sports Med. 2023 Mar;51(3):837-848.
  8. [8]Clegg DO, et al:Glucosamine, Chondroitin Sulfate, and the Two in Combination for Painful Knee Osteoarthritis. N Engl J Med. 2006: 354:795-808

人工関節以外の新たな選択肢
「再生医療」

変形性膝関節症の方、慢性的なひざの
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