本記事では、半月板損傷の保存療法から手術療法まで、有効な治療法について詳しく解説します。
半月板は一度損傷すると自然治癒が難しく、放置すると変形性膝関節症のリスクが高まるため、早期の治療が重要です。
このコラムでは、半月板損傷の有効な治療法を、専門医が症状別に解説します。半月板損傷の方、またはその疑いがある方は、ぜひ参考にしてください。
目次
半月板損傷とは?
半月板は、膝関節の大腿骨(だいたいこつ:太ももの骨)と脛骨(けいこつ:すねの骨)の間に存在する軟骨で、衝撃を吸収するクッションの役割を担っています。
半月板損傷とは、この半月板が部分的または完全に損傷した状態です。
半月板を損傷した時に起こる主な症状としては
- 痛みや腫れ
- 関節の可動域の制限
- 水がたまりやすい
- 膝に引っ掛かり感がある
- ロッキング(激しい痛みと共に、膝が動かせなくなる状態)
などがあげられます。
半月板損傷の概要についてはこちらでもご紹介しています。
▷ 半月板損傷の症状/原因/治療法
原因
半月板が損傷する原因は、大きく2パターン考えられます。
ひとつは、スポーツでケガをしたことによって起こる外傷性のものです。
膝はひねるような横の動きに弱く、接触プレーなどで強い衝撃とともに膝をひねったりすると、半月板が断裂してしまいます。
もう一つ考えられる主な原因は、加齢によるダメージです。半月板は主に水とコラーゲンでできています。これらは加齢と共に減少してしまうので、それに伴って半月板はもろくなり、傷つきやすくなります。そうすると、膝関節への負担の蓄積やささいなケガ、日常生活の動作のなかでも半月板が損傷してしまうことがあります。特に40歳以上は注意が必要と言えるでしょう。
半月板損傷の種類
一言に半月板損傷と言っても、病態として様々な種類があります。半月板はレントゲン写真には映りませんが、MRI検査で確認することが可能です。MRIの診断率は80~90%といわれており、様々な研究で有用性が報告されています[1][2]。
縦断裂 | 横断裂 | 水平断裂 | 変性断裂 | |
損傷の状態 | 半月板が縦に断裂 | 半月板が横に断裂 | 半月板の表面が めくれるように 損傷 |
半月板がバサバサと ささくれるように損傷 |
原因 | ケガなどの外傷性の要因 | ケガなどの外傷性の要因 | ケガなどの外傷性の要因 | 加齢の影響 |
断面図 |
こちらの動画でご紹介している症例では膝の内側の後ろ側で変性断裂が起きているのがMRI画像からわかります。膝の内側の後ろ側で起こる変性断裂の症例は非常に多く、しゃがんだときに強い痛みが出やすくなることが特徴です。
半月板損傷は自然に治らないー重症化すると起こる症状ー
半月板は血管が乏しく、修復に必要な栄養素が運ばれにくいため、一度傷ができてしまうと基本的には自然治癒を望めません。また、半月板がダメージを受けて断裂したり形が変わったりしてしまうと、半月板に覆われていた軟骨部分が露出し、軟骨のすり減りが早まり、膝の関節の変形が進行してしまうなど様々な症状があらわれます。正常な膝関節と変形性膝関節症の膝関節には長さや幅の比率、角度、窪みなど半月板の形状の違いが見られ、発症や変形に関係していることが海外の研究でも報告されています[3]。
放置すると起こる症状①ロッキング現象
ロッキング現象とは、痛みとともに膝がロックされたようにいきなり動かなくなる症状のことです。損傷した半月板の破片が膝関節に引っかかってしまい、動きを制限してしまった時に生じます。
この症状がある場合は、半月板損傷が重度ということ。放置すると曲げ伸ばしが元に戻らない可能性もありますので、手術で根本的に治療する必要があると考えられます。
放置すると起こる症状②何度も膝に水がたまる
膝にたまる水は関節液の過剰分泌によるものですが、その原因は膝関節の外壁とも言える滑膜の強い炎症です。膝に水がたまったら水を抜けばいいのでは? と思うかもしれませんが、滑膜の炎症をどうにかしない限り、水を抜いてもまた溜まります。そして、膝の水たまりは関節の運動機能の低下に影響し、重度になるほどその障害は大きくなると言われています[4]。
このような症状は、半月板損傷が慢性化したときの症状でもあるため、手術が必要となることも少なくありません。
膝に水がたまる症状についてはこちらのコラムでも詳しく説明しています。
▷ 膝に水が溜まったらどうすべき? 専門医が原因と対処法を解説
軽度の治療は「保存療法」
半月板損傷の治療というと手術が頭に浮かぶかもしれませんが、半月板損傷をした全員に手術が必要なわけではありません。治療法は、大きく分けて保存療法と手術療法の2種類あり、半月板損傷の症状が軽度の場合は保存療法を行います。
保存療法には、主に薬物療法、物理療法、装具療法、運動療法などがあり、これらを組み合わせて行います。
長い治療期間と自助努力も必要な治療ですが、手術とは違って半月板を温存できるため、将来変形性膝関節症になりにくいというメリットがあります。
薬物療法
外用薬・内服薬・座薬で炎症を抑え、炎症が落ち着いたらヒアルロン酸注射を行い、膝の潤滑を高めます。膝の痛みを抑え、関節の動きを滑らかにすることで日常生活でかかる半月板への負荷を抑えられます。
物理療法
機器による膝の温熱や、電気的な刺激を利用して膝の痛みや炎症を抑える治療法で、温熱療法と寒冷療法があります。温熱療法では膝を温めることで血行を良くし、運動以外で運動機能の活性化を図ります。一方寒冷療法は、アイシングなどで膝を冷やして痛みを和らげる方法です。
装具療法
日本人に多いO脚では、膝の内側に体重が偏ってかかるため、膝の内側の軟骨や半月板がすり減ってしまいます。装具療法では足や靴に装具を装着し、体重のかかる場所を変え、半月板のすり減りを防ぐことで、痛みの軽減が期待できます。
運動療法
痛みが酷くないようであれば、半月板をサポートする機能を強化しながら治療していく運動療法が効果的です。ただし、がむしゃらにリハビリを行ったからと言って治療効果が高いわけでもありません。医師や理学療法士など、専門家の指示を仰ぎながら行うことが大切です。
半月板損傷の運動療法(リハビリ)について、詳しくはこちらをご覧ください。
▷半月板損傷のリハビリ【自宅でできる13の方法】
保存療法のメリット・デメリット
保存療法は、長い治療期間と自助努力も必要な治療ですが、手術とは違って半月板を温存できるため、将来変形性膝関節症になりにくくなるというメリットがあります。
ただし、半月板の損傷具合によっては効果が得られない場合もあるため、膝の状態をしっかり把握したうえで、治療法を選択する必要があります。
概要 | メリット | デメリット | |
薬物療法 | 外用薬(湿布)や消炎鎮痛剤の内服、膝へのヒアルロン酸注射などを行う | 痛みの改善が期待できる | 継続的に治療を受ける 必要がある |
物理療法 | 機器による膝の温熱や 電気治療などを行う |
運動以外で運動機能の 活性化が期待できる |
痛みや可動域が改善しないこともある |
装具療法 | 装具やテーピングなどで 膝の補助・補強を行う |
痛みの軽減が期待でき、 動きやすくなる |
装具がないと痛みが緩和 されない |
運動療法 | 膝に負担をかけない ための筋力強化を行う |
膝関節の負担要因 (血流や体重)の改善 |
適切な方法でないと逆効果になることも |
半月板損傷の手術
膝が動かなくなるロッキング症状や、繰り返し水がたまる症状があり、保存療法で効果が期待できない場合には手術療法が検討されます。
半月板損傷の手術には、損傷部分を縫い合わせる「半月板縫合術」と、断裂した部分を取り除く「半月板切除術」の2種類があります。
治療の際には、病状に応じて適切な手術法を選択したり、これらの手技を組み合わせたりします。
手術を検討する際には、健康寿命の観点から半月板機能の温存が重要です。特に若い方や膝の活動性が高い方は、できるだけ半月板を温存し、膝への負担が少ない治療法を選択するとよいでしょう。
半月板縫合術
傷ついた半月板を縫合する手術です。
メリット | デメリット | 入院期間 | 仕事復帰の目安 |
|
|
|
|
半月板切除術
半月板の損傷部分を切除し、取り除く手術です。損傷部位が複雑で、縫合術が難しい場合に実施されます。
メリット | デメリット | 入院期間 | 仕事復帰の目安 |
|
|
|
|
膝の負担を軽減させるため、半月板切除術でも、術後にリハビリを続ける必要があります。
手術の流れ
手術の流れについての一例をご紹介します。
実際の詳細な手順や流れについては、手術を受ける医療機関にご確認ください。
手術からの日数 | 内容 |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
手術に伴うリスク
半月板損傷の手術には、いくつかのリスクや合併症があります。主なリスクと合併症についてご説明します。
感染症
半月板手術での術後感染は稀ですが、発生することがあります。感染すると、手術部位が赤く腫れたり、痛みが増したりします。予防策として、抗生物質の予防投与を行います。
血栓
手術後、足や肺に血栓ができるリスクがあります。これにより、深部静脈血栓症や肺塞栓症が発生する可能性があります。予防策としては、早期離床、積極的な運動、間欠的空気圧迫法などの理学的予防法を行います。
痺れ
術後に下肢の痺れが生じることがあります。ほとんどの場合、術後数日で改善します。
再断裂
半月板縫合術を行った場合、再度断裂する可能性があります。この場合、再手術が必要になることがあります。
関節の硬さや動きの制限
手術後、関節の動きが硬くなることがあります。リハビリテーションを行っても完全に動きを取り戻せない場合があります。
変形性膝関節症のリスク
半月板切除術を行った場合、将来的に変形性膝関節症のリスクが増加します。これは半月板が取り除かれたことで、膝関節にかかる負担が増加するためです。
こうした手術に伴うリスクを最小限に抑えるためには、適切なリハビリや、傷口を清潔に保つ・感染の兆候がないか注意深く観察するなどの感染予防対策、手術後の定期的なフォローアップが重要です。
手術を受ける前には、医師と十分相談し、こうしたリスクや合併症についてしっかり理解しておきましょう。
手術せずに治す新しい治療
半月板損傷の治療では一般的に、保存療法で効果が得られない場合に手術療法が検討されるわけですが、手術療法にはリスクやデメリットも存在します。それ故に治療を踏みとどまる方も少なくありません。
「保存療法では効果がないけど、手術はしたくない」
そんな方に知っていただきたいのが再生医療という選択肢。
再生医療では、ご自身の血液や脂肪の中にある細胞を膝に直接注射することで幹細胞が傷ついた半月板を修復し、痛みや炎症を抑える効果が期待できます。
再生医療ってどんな治療?
再生医療とは、自己組織を材料に病気や事故で失った組織・臓器の機能回復が期待出来る、先進的な治療法です。
体に負担が少なく、外科的な手術に比べて治癒までの期間が短く済むなどのメリットの他、ヒアルロン酸注射や痛み止め薬のような対症療法と異なり、痛みの根本的治療にもなり得る方法であると考えています。最近当グループが行った研究では、再生医療に準じたPRP-FDという治療で軟骨体積の増加も認められました[5]。
自由診療のみでの提供で保険適応外ではありますが、「手術しないで痛みを軽減したい」というニーズから、治療の選択肢として検討される方は年々増加しています。
ひざ再生医療についてさらに詳しく知りたい方はこちら
▷よくわかる!ひざ再生医療
治療の適応はMRIでチェック
半月板はレントゲン写真には写りません。
半月板の状態を正しく判定し、治療が有効かを見極めるためには、MRI検査が必要です。
もし、レントゲン診断を受けた上で現在行っている治療で効果がないという方は、ぜひ一度MRI診断を受けてみることをおすすめします。
▷MRI即日診断についてもっと詳しく
違和感を感じたら早期に治療を始めることが重要
膝の病気やケガは早期に適切な治療を行わなければ、進行して歩くことが困難になるケースも少なくありません。そうならないためにも、原因をきちんと調べておくことが大切です。
当院でも膝の違和感や痛みの原因がわからないと、ご相談をいただくことが多々あります。そういったときには、MRIひざ即日診断で詳しく調べて、何が原因か、どうすれば良いかをわかりやすくご説明しています。同じようなお悩みをお持ちの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
コラムのポイント
- 半月板損傷は自然治癒しない病症であり、放置すると重篤化してしまう危険がある
- 半月板損傷には保存療法、手術療法の他、再生医療での治療が効果的
- 半月板損傷を患った場合は早期治療が大切
よくある質問
半月板損傷が原因で膝に水がたまっていると診断されました。水を抜くとクセになるからやめたほうがいいと聞いたことがあるのですが、どのような治療が効果的なのでしょうか?
膝の水を抜くことでクセになることはありません。
水を抜くからクセになるわけではなく、炎症が続いていることが原因で水が溜まり続け、クセになっているのではと感じてしまうのです。
膝に水が溜まってしまった場合、抜かずに放置してしまうと炎症が長引き、痛みを悪化させる恐れがあります。
そのため、膝に水が溜まってしまった場合は放置せず、さらにその原因である炎症(半月板損傷)を抑制するアプローチを行うことが大切です。
■半月板損傷に効果的な“PRP-FD注射”
PRP療法は再生医療の一種で、自身の血液に含まれる血小板を膝に注射する治療法です。
PRP-FDとは、このPRPをさらに高濃度にしたもので、傷の修復に働く成長因子が、一般的なPRP療法の2倍以上含まれています。
自身の血液や脂肪の中にある細胞を膝関節内や靭帯などに直接注射することで幹細胞が傷ついた半月板を修復し、痛みや炎症を抑える効果が期待できます。また、自分の血液成分なので、拒絶反応やアレルギー反応などのリスクが少ないことも特長です。
当院では、膝の再生医療の分野に特に注力しております。
ヒアルロン酸注射が効かないとお感じの方、半月板損傷と診断された方は、是非一度ご相談にいらしてください。
▷はじめての方へ
半月板損傷の手術後、いつごろから松葉杖なしでも歩けるようになりますか。
半月板切除術では1~2週間後以降、半月板縫合術では4~5週間後以降に歩けるようになります。
半月板切除術では、術後1.5ヶ月でランニング開始、術後3か月でのスポーツ復帰が目安でリハビリを行います。仕事は、デスクワークなどであれば1ヶ月、体を動かすような仕事であれば3ヶ月ほどで復帰が可能になります。
一方、半月板縫合術では術後3か月でランニング開始、術後6か月でのスポーツ復帰が目安でリハビリを行います。仕事復帰は業務内容によるため軽作業なら1ヵ月、重労働であれば3ヶ月かかる場合もあります。
手術の場合は損傷の部位や程度などによって回復までの時間が異なり、問題なく日常生活を送ることができるまで3ヵ月ほど掛かります。その点、再生医療なら手術を行わなくとも膝への注射のみで自然治癒に近い回復を目指すことが可能で、体への負担も軽く済みます。
半月板損傷への効果が期待できる再生医療についてはこちらのコラムをご覧ください。
▷PRP療法が膝の痛みに果たす役割とは?
参考
-
[1]∧Yavuz Kocabey, et al. The value of clinical examination versus magnetic resonance imaging in the diagnosis of meniscal tears and anterior cruciate ligament rupture. Arthroscopy
. 2004 Sep;20(7):696-700.
- [3]∧Kenneth T Gao, et al. Large-Scale Analysis of Meniscus Morphology as Risk Factor for Knee Osteoarthritis. Arthritis Rheumatol. 2023 Jun 1.
- [4]∧齊藤 明, 岡田 恭司, 斎藤 功, 木下 和勇, 瀬戸 新, 佐藤 大道, 柴田 和幸, 安田 真理, 堀岡 航, 若狭 正彦「変形性膝関節症における膝関節水腫と膝関節筋機能との関係」理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
- [5]∧大鶴 任彦, 前川 祐志, 尾辻 正樹, 岡崎 賢「変形性膝関節症に対するバイオセラピーにおける SYNAPSE VINCENT を用いた関節軟骨評価」関節外科41(5): 545-549. 2022
人工関節以外の新たな選択肢
「再生医療」
変形性膝関節症の方、慢性的なひざの
痛みにお悩みの方は是非ご検討ください。
関連するひざの疾患
関連するひざの治療
電話から
電話受付時間 9:00 〜18:00/土日もOK
ネットから