膝の痛みにお悩みの方によく見られる “膝に水が溜まる” という症状。なぜ膝に水が溜まるのか? 水が溜まるとどうなるのか? 初期症状で気づけるのか? もしなった場合、どう対処すべきか? 痛みを早く取り除くためにぜひ押さえておいていただきたいポイントを、専門医が解説します。
目次
「膝の水」とは何か?
膝の水とはそもそもどういうものか? どうして溜まってしまうのか?
まず前段として、こうした点をわかりやすく解説します。
膝関節の構造
関節とは、一言で言うと骨と骨のつなぎ目です。身体を自由に動かすには、このつなぎ目がスムーズに動かなくてはいけません。そのため、関節には動きをスムーズにする様々な工夫が施されています。
例えば、骨の先端部は軟骨というスベスベした組織で覆われていますし、骨と骨の間には軟骨成分でできた半月板というクッション材も存在します。加えて、関節全体は関節包という袋で包まれており、その内側は滑膜という、これもまたスベスベした膜で覆われています。さらにその膜の中は、関節液というヌルヌルと少し粘り気のある液体で満たされています。
このように、膝関節内部は、滑らかな動きを可能にし、衝撃から膝を守るための仕組みが何重にも備わっているのです。
「膝の水=関節液」とは?
膝の水は「関節液」という液体です。関節液には、関節の動きを滑らかにする潤滑油の役割と、軟骨組織に栄養を届ける役割があります。
関節液はどなたの膝の中にも存在しますが、「膝に水が溜まる」のは、その量が異常に増えてしまった状態と考えてください。通常1〜3mL程度なのですが、多い人だと30mL以上にまで増えてしまうことがあります。
関節液の量を調節するのは滑膜です。滑膜は、新しい関節液を作って分泌すると同時に、古い関節液を回収する働きを担っています。なんらかの理由でこの新陳代謝のバランスが崩れ、関節液の回収が追いつかなくなった時、膝に水が溜まります。
膝に水が溜まる原因は?
関節液の新陳代謝がうまくいかなくなるのは、滑膜の炎症に起因することがほとんどです。主な原因としては、変形性膝関節症や半月板損傷、関節リウマチ、痛風などが考えられます。
原因① 変形性膝関節症
中高年の方の膝に水が溜まる原因疾患として最も多いのは、変形性膝関節症です。加齢で弱くなった軟骨や半月板などの関節組織がすり減り、そのかけらが滑膜を刺激して炎症を引き起こします。
変形性膝関節症の場合、水が溜まった状態を放置すると症状を助長させる可能性があるため、早急に治療を行う必要があります[1]。
原因② 半月板損傷・靭帯の損傷
年齢が若い方の場合、激しいスポーツや無理な動きが原因で膝関節に負担がかかり、半月板損傷や靱帯損傷がきっかけで炎症を起こすこともあります[2]。
原因③ 関節リウマチ・痛風
関節リウマチは免疫の異常によって、痛風は体内で過剰になった尿酸が関節に溜まって炎症を引き起こします。
抜いた水の色で予測される原因となる病気
炎症の原因は、膝の水の色や状態を見させていただくことでおおよそは特定できます。
正常な関節液は粘り気のある黄色みの透明色ですが、変形性膝関節症が原因の場合、その黄色がやや濃く、粘り気も少なくなります。
水の色が赤い、もしくは褐色の場合は、骨折、半月板損傷、靱帯損傷等の外傷で内出血が原因であることも多いです。
白濁しているときは、感染症や痛風を疑います。
■抜いた水の色と考えられる原因
抜いた水の色 | 考えられる原因 |
褐色・赤色 | 骨折、半月板損傷、 靭帯損傷などの外傷 |
白濁色 | 感染症、痛風 |
濃い黄色で透明 | 変形性膝関節症 |
膝の水を抜くとクセになる?
膝の水を抜くとクセになるので抜きたくないとおっしゃる方が時々いらっしゃいますが、それは間違いです。何度抜いても水が溜まるという場合、それは膝の炎症が続いているからであって、抜くこと自体が悪影響を与えているわけではありません。
逆に溜まった水を放置すると、水の中に含まれるサイトカインが炎症と痛みをさらに悪化させる恐れがあります。ですから、必要以上に膝の水が溜まりすぎた場合には、なるべく早めに水を抜いてあげて、それと同時に水が溜まる原因を突き止めて、その原因を素早く取り除くことが大切です。膝の水たまりが重度であるほど、膝関節の運動機能にも影響を及ぼすという研究報告もあるからです[3]。
膝の水を抜く際に痛いかどうか気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、注射針を刺す痛みの他は特にありません。ですのでご心配なさらずに整形外科で処置を受けられることをおすすめします。
膝の溜まった水は自然に治る? 対処法は?
ひざに水が溜まった場合、いくら長い期間待っても自然治癒することはありません。炎症が治らない限り、水はたまり続けるからです。
過剰に膝の水がたまりすぎた場合には、内圧の高まり(関節内がぱんぱんの状態)から痛みも出てくるはずなので、まずは水を抜く必要があります。水を抜くことで、痛みや膝の腫れといった症状がまず緩和されます。同時に抜いた関節液の状態を確認したり、必要に応じてMRI検査を行うなどして関節内部の状態を正しく把握します。そうして水が溜まる原因を突き止めた上で、その原因に即した治療を行うことが重要です。
膝に水が溜まるとどんな感じ? 初期症状チェック
次のような初期症状がでていると、膝に水が溜まっている可能性があります。
✅膝全体に腫れぼったさを感じる
✅膝が重苦しくだるいような違和感がある
✅膝が突っ張ったような感じで、曲げ伸ばししづらくなった
そんな初期症状を覚えたら、水が溜まっているかどうかセルフチェックしてみてください。
①まず膝を伸ばして床に座り、片方の手で膝の少し上を膝のお皿の方に向かって押さえます。
②次に、もう片方の手でお皿の骨を軽く押します。
もし水が溜まっていれば、異物感(膝の中に何かあるような、お皿の骨が浮くような感じ)があります。
膝に水が溜まった場合、自分で治す方法はある?
膝に水が溜まったかもしれないと気づくと、今すぐ何かしないと!と不安になる方も多いでしょう。ただ、良かれと思って行った対処が逆効果になってしまうこともあります。
例えば、温める or 冷やすという処置です。原因が膝のケガによるもので急性期であれば、冷やす処置が正解で温めるのは厳禁。逆に変形性膝関節症などの慢性疾患の場合、冷やすと痛みの症状なども悪化しかねないため、温めるのが正解です。ちなみに湿布は消炎鎮痛効果を得ることが目的なので、温湿布でも冷湿布でもさほど違いはありません。
マッサージも血流改善の効果は期待できますが、膝関節の炎症の原因になる疾患も様々あり、ケガなどの場合は正しくマッサージを行わないと損傷を悪化させる可能性も考えられます。自分で治そうとすると、さらに症状がひどくなる恐れもあるため、まずは病院を受診して水を抜き、原因に沿った治療法やセルフケア方法を医師に確認することをおすすめします。
膝の水を抜いた後の注意点
「膝の水を抜いても痛みが消えない」とご相談いただくことがあります。先にもお伝えした通り、膝の水を抜くことで、腫れや重だるさの改善は図れます。ただし、根本的な原因である関節炎の治療を行わなければ痛みは改善されません。一時的に楽にはなるかもしれませんが、炎症を起こしていれば膝の痛みも水たまりも再発します。
そして、膝の水を抜いた後に痛みが引かない事象には、もうひとつ考えられる理由があります。それは、感染です。処置を行ってから数時間は注射針を刺した痛みが残りますが、自然に消えていきます。しかし、何時間たっても痛みが残ったり発赤や熱を帯びたりした場合は、処置の際に体外の細菌に感染した疑いがあるため、病院を受診することをおすすめします。
膝に水が溜まる原因を特定するのに有効なMRI検査
「膝に水が溜まる」と一口に言っても、元になっている原因は様々です。原因を特定して適切な治療を行わない限り、炎症は収まらず、何度抜いても水は溜まり続ける可能性があります。
その原因を突き止めるために、当院ではMRI検査を重視しています。MRI検査では、膝を構成する様々な組織の状態を細かく把握することがだからです。
当院のMRIひざ即日診断では、何が原因かはもちろん、現在の膝の状態から今後どうすれば良いかについても分かりやすくご説明やご提案をさせていただいています。膝の水たまりや膝の痛みに長年お悩みの方は、お電話やはじめての来院予約からもご相談を受け付けておりますので、ぜひお気軽にお問合せください。
コラムのポイント
- 膝に水が溜まる原因は滑膜の炎症
- 膝に水が溜まった場合は、早めに水を抜く必要がある
- 自然治癒はしないため、原因の特定と適切な治療が必要
よくある質問
膝に水が溜まったときに自分でできる対処法はありますか?
アイシングやサポーター、筋トレ・ストレッチ、マッサージなどがありますが、まずは病院の受診をおすすめします
自分で簡単にできる対処法もネットで紹介されていますが、原因によっては逆効果になることも考えられます。次のような対処法がありますが、できればまずはお近くの整形外科の受診をおすすめします。
■患部をアイシングする(冷やす)
患部のアイシングは急性期(ケガをした直後)の炎症を抑える効果があります。保冷剤や氷嚢を使って、痛みのある部分を冷やしましょう。
■サポーターを着ける
サポーターは、ひざにかかる負担の軽減し、痛みを抑える効果が期待できます。
サポーターに関しては以下のコラムも参考にご覧ください。
▶膝サポーターは変形性膝関節症に効果的?【効果・選び方・デメリット】
■ストレッチ・筋トレ・マッサージ
マッサージの血行促進効果により、痛みの軽減が期待できます。太ももやお尻のマッサージが効果的です。
マッサージや筋トレについては以下のコラムもご参考にご覧ください。
▶【動画で解説】膝が痛いときのおすすめマッサージ
ひざに水か溜まっているときに、自覚症状はありますか?
自覚症状としては、以下が考えられます。
・膝に痛みを感じる
・腫れや熱感がある
・膝のお皿に違和感(ぷかぷか浮いたような感覚)がある
また、炎症が強い場合は微熱が出ることも考えられます。違和感があれば、なるべく早めに整形外科へ受診しましょう。
当院でも、原因の特定ができるMRI検査と、専門医による診断が受けられる「MRIひざ即日診断」をご用意しております。以下よりぜひお問い合わせください。
▶MRIひざ即日診断
膝に溜まった水は放置するとどうなりますか?
放置してしまうと、膝の炎症と痛みがさらに悪化する可能性があります。
「膝の水を抜くとクセになる」と一部では言われており、水を抜かずに放置すべきか、お悩みの方もいらっしゃるかもしれません。
膝から何度抜いても水が溜まるのは炎症が続いているためで、水を抜くこと自体が膝に悪影響を及ぼすことはないのでご安心ください。むしろ、膝の水が溜まりすぎた場合に放置してしまうと、水の中に含まれるサイトカインが炎症と痛みをさらに悪化させる恐れがあるため、膝の水はなるべく早めに抜くようにしましょう。
膝の水を抜くだけでは根本的な問題解決にはなりません。水の量を正常な状態に戻すとともに、根本的な原因への対処が必要です。膝に水が溜まったら、自己判断で放置せず、早めの段階で診察を受けていただくことをおすすめします。
当院ではMRIひざ即日診断を行っておりまます。膝の炎症の原因特定にMRI検査は不可欠ですので、ぜひ一度検査を受けていただくことをおすすめします。
MRI検査の詳細はコチラ
▶MRIひざ即日診断
ウォーキングは変形性膝関節症で、膝に水が溜まるのを防ぐのに有効ですか。
膝に水が溜まるのを直接防ぐことはできませんが、変形性膝関節症の症状の緩和や予防には効果が期待できます。
痛みがない、あるいは歩行時痛が軽度であればウォーキングは推奨できます。
ウォーキングにより膝を支える筋力の増強、体重減少などの効果が期待でき、このことは膝への負担軽減につながるからです。
ただし、坂道や階段の昇降は避けるようにしましょう。また痛みが激しい場合は無理をしないでください。
<ウォーキング時のポイント>
①背筋を伸ばし、アゴを少し引き、目線を5〜6mを見る。
②軽くお腹を引き締めて歩きはじめる。
③歩幅は、足が着地する際に膝が曲がる程度になるように意識する。
④足はかかとから着地し、そのまま親指の付け根に体重を移動させるように動かす。
⑤腕は足の動きに合わせて軽く振る
⑥首はまっすぐに保って揺らさないように意識する。
歩き方を間違えると変形性膝関節症の症状を悪化させてしまい、膝に水が溜まるのが早まってしまう可能性があるので、正しい姿勢で負担がかからない程度のウォーキングがおすすめです。
膝に水が溜まらないための予防法として、有効なストレッチはありますか?
適度な運動は、膝関節の負担を和らげる効果があります。
特に膝に加わる衝撃を吸収する大腿四頭筋(太ももの筋肉)を中心にストレッチを行うのが効果的です。屈伸運動やウォーキングの他、以下のコラムでは、ストレッチの方法を動画で紹介しています。ぜひ参考にご覧ください。
▶【動画有り】変形性膝関節症に効く! 室内で簡単にできる筋力トレーニング
▶膝が痛い方にはストレッチがおすすめ!寝ながら・座りながらの簡単ストレッチ4選
参考
人工関節以外の新たな選択肢
「再生医療」
変形性膝関節症の方、慢性的なひざの
痛みにお悩みの方は是非ご検討ください。
関連するひざの疾患
関連するひざの治療
電話から
電話受付時間 9:00 〜18:00/土日もOK
ネットから